具体的にみるモデル就業規則の罠
モデル就業規則として、最新の厚生労働省「就業規則規程例」(同HPから入手可能)を取り上げます。全59条あるうち改善の余地がある条文数は約26個にも上りました。以下はその中のほんの一例です。
なお便宜上、モデル就業規則を「モデル規則」と呼びます。
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そもそもパートタイム規程がありますか?ない場合はこのモデル規則がパートにも適用される恐れがあります! 賞与や退職金、有休、休職など、正社員と同様に扱うよう訴えられるリスクあり!(判例でパートに退職金の支払いが命じられたケースがあります) |
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例えパートタイム規程があっても、モデル規則と整合性がとれていますか? 整合性がない場合やモデル規則に新たな規定を追加した場合、パートにも適用されてしまいます! |
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入社書類の提出は採用後でいいですか? 入社書類はリスク(回避)情報が満載。採用前にそのリスクを発見・対処することに大きな意味があるのです。 また締日直前の採用だと、給与計算困りませんか? |
b | 普通、履歴書は面接時あるいはその前に提出するはずですが… |
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身元保証書、誓約書は?諸手続きに必要な書類は?車両関係(免許証や保険等)は? 重要な書類は明確にしておくべきです。 |
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そもそも休職制度って必要ですか?法律では何ら義務はありません。 その間は社員としての身分保障をしなくてはいけません。 |
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断続的に欠勤した場合、休職に持ち込めますか? |
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休職期間は年単位で与える必要はありません! |
e | 全社員一律でいいすか? |
f | 労働契約上、職種や業務内容が限定されている場合は、必ずしも配転する必要はありません。 |
g | 治癒(完治)しない限り退職に持ち込めないとも解釈できます…それでいいですか? |
他にもいろいろ不備な点が見受けられます。 |
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試用期間中の社員に休職与えますか? 復職の手続きはどうしますか?(裁判所の判断ポイント) 復職と欠勤を繰り返す場合はどう対処しますか? 休職中の賃金、社会保険料、有休はどうしますか? 今話題の「リハビリ出勤」は? 等 |
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タイムカードの打刻時間=始業・終業時間でいいですか? これではタイムカードの時間で実働時間を把握・計算することとなり、無駄な残業代を支払わざるを得ません。(いわゆる「未払い残業代」となってしまう) 例え所定労働時間を基に残業代を支払っていてもアウトです。労基法(下記参照)により、個別労働条件が就業規則の内容より低い場合、就業規則が適用になってしまうからです。 場合によっては2年間遡って差額を支払うことに…完全に会社が損をする、大きなリスクを負った規定です! |
労働基準法第93条 | |
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。 |
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これ実は曖昧な表現です。 無駄な残業代を請求される可能性あり! |
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本当に45時間でいいですか?場合によりマズイ規定です! |
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本当に35%でいいですか? 無駄な残業代の支払いで、完全に会社が損をする規定です! |
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本当に50%でいいですか? 無駄な残業代の支払いで完全に会社(中小企業)が損をする規定です! |
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代替休暇とは何か、実務にどういう影響をもたらすかご存知ですか? また本当に35%でいいですか? |
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本当に360時間・40%でいいですか? 無駄な残業代の支払いで、完全に会社が損をする規定です! |
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無駄な残業代の支払いで、完全に会社が損をする規定です! トドメの規定といっていいでしょう。恐ろしいです。 |
例え25%で割増賃金を支払っていても14条同様、労働者にとって条件のいいモデル規則が適用されてしまいます!(前述の労基法第93条参照) 場合により2年遡って差額を支払うはめに… |
この他、欠勤控除、昇給、賞与、退職金等の規定においても、会社が無駄なコストを支払う内容になっています。
また試用期間、有休、セクハラ禁止、個人情報取扱い、退職、解雇、懲戒の種類、懲戒事由等の規定においては、リスク管理の危うさがうかがえます。更にリスク回避のために必要な多くの規定が欠落しています。
一方で服務、遵守事項、表彰等の規定をもっと工夫し、更に経営理念や経営者の“思い”を反映させれば、“組織活性化”を担う就業規則になるはずです。
モデル就業規則で会社は… ①知らない間に損している! ②自らリスクの種をまいている! ③組織活性化の機会を逃している! |