吉田松陰 松下村塾 人の育て方

今が旬な(?)吉田松陰に関する人材育成本。

この本の趣旨は、吉田松陰や松下村塾に関するヒストリーやエピソードから、人材育成やリーダーシップについてのヒントを見つけようというものである。


筆者はかなりの松陰通のようで、やたらと詳しい。内容の7割は歴史ものと言ってよい。

次から次に出てくる登場人物や聞きなれない言葉に苦労しながらも(涙)、幕末の雰囲気や松陰の人柄や人望、松下村塾の果たした役割、弟子たちとのエピソードなど、興味深く読んだ。

 

 

松陰はかなり熱血で優秀な教育者であったことがうかがえる。

例えるなら、松岡修三の情熱と、野村元監督の人材育成と、池上彰の教養を持ち合わせたような人物(笑)

 

松下村塾での松陰は、常に弟子と共に学ぼうという「師弟同行」がベースにある。

入門希望者に「あなたは何を私に教えることができますか?」と質問することもあったという。

誰でも他の人に学ぶことは多いものだ。この謙虚な姿勢、ともすればリーダーは忘れがちだ。

松陰は、そんなリーダーに求められる第一の条件を「志」、第二の条件を「気力・気迫」としている。これらは、今の時代のリーダーにも通じるものだ。リーダーに志と気力がなくて、求心力など生まれない。

吉田松陰
吉田松陰

松下村塾の学習スタイルは、読書・書写、そして仲間との議論だ。

松陰は、野山獄に収容されていた1年数ヵ月の間に、600冊もの本を読破したという。

少人数の仲間との議論は、「集団啓発」によりさまざまな気づきや効果を生み、大いに白熱したことだろう。

なにせ塾生の多くは多感な20歳前後、尊王攘夷やら王政復古やらが叫ばれた時代だ。知的好奇心も半端なかっただろう。

例えば社員研修などでは、一方的な講師の話より、参加者同士がディスカッションや対話を通じ互いに気づきを得る方が効果的だったりする。現在にも通じる有効なやり方だ。

 

一方で松陰は、人に教えを乞うことや読書も大切だが、まずは現場に行って事実に直面する「現実主義」や、実際に実践に移す「実践主義」が重要としている。

松陰は生涯8回、全国に遊学の旅に出た。そこで古今東西の優れた人物に会って話を聞き、名著や伝記に触れたのだ。もちろん、弟子たちにも遊学させている。

現場を知らずして、机上論だけでは決してうまくいかないことは、今も昔も同じということだ。

高杉晋作
高杉晋作

松陰の育成方法で私が最も感心したのは、長所と短所は表裏一体であるという考えの下、短所を厳しく戒めることをせず、じっくり時間をかけ自覚させ、短所を長所に変えることを重視したことだ。頭で分かっていても、なかなかできるものではない。

 

これには、高杉晋作のエピソードがある。

きかん気の乱暴な、ワガママに育った晋作のその性格を、桂小五郎が心配して松陰に相談した際、松陰は「僕もそう思う。ただもう10年そのままにしましょう。矯正すれば成長が中途半端になるばかりか、いい点をダメにしてしまう。10年後、僕が事を成すときには必ず晋作に相談するだろう」と言い、その小五郎との一連のやりとりを手紙で晋作に伝えたという。

ご存じのとおり、晋作は後に外国船の下関砲撃に際し「奇兵隊」を創設。藩論を統一して討幕運動を進めた志士で、久坂玄瑞と共に松下村塾の双璧と称された。私の好きな志士でもある。

松陰には、晋作の頑固な性質が、将来指導者として必要になることをよく分かっていた。そして、人材を育てるには忍耐と寛容さが必要であることもまた、よくわきまえていた。

松下村塾
松下村塾

晋作の話もそうだが、松陰は、事あるごとに弟子たちに手紙を書いていることも特筆すべきだ。手紙で、弟子の長所や弟子に期待することを伝えている。

松陰の気持ちを知った弟子たちは、さぞ励みになったことだろう。そして、師弟の信頼関係や絆はより強固なものになっていったことだろう。

上司が常に部下を気にかけ、必要に応じてほめたり信頼することは、動機づけを促す意味でも本当に大切だ。

 

松陰が死罪に処せられた後も、松陰の精神は弟子たちに受け継がれていった。

だからこそ、実質的に松陰の手で松下村塾を開いていたのは、たった2年4ヵ月であったにもかかわらず、高杉晋作、久坂玄瑞、伊藤博文、桂小五郎、山県有朋らの名だたる人材が育っていったのだろう。

 

 

いかに優秀なリーダー(自分の人生に良い意味で影響を与える人物)に巡り合えるかというのは、人生においてものすごく大きいことだと思う。

「この人に認められたい!」「この人のためなら何でもする!」と思えるほどの人物や師と出会いたいものだ。(或いは、少しでもそのように思われるリーダーになりたいものだ)

 

吉田松陰の教育方法や教育者としての精神は、時代を超えて見習うべき点が多々ある。


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