働き方改革案

先日、厚労省が「働き方改革案」を提示した。

働き過ぎを防止しながら、一方で規制を緩めるというものだ。今国会に労働基準法の改正案を提出し、来年4月にも施行したいようだ。

これが通れば、我々の業界もまた忙しくなるだろう。ビジネスチャンスでもある。

 

さてこの改革案だが、政府のもくろみ(特に働き過ぎ防止)に本当に資するか否かという観点から、思いつくまま綴ってみたい。

 

①有休5日消化義務化

中小企業にとっては厳しい制度だ。政府はILO加盟国として、有休消化の世界水準にどうしても合わせたいようだ。

まず懸念するのが、無理やり有休を付与したところで、そのしわ寄せが長時間労働や休日出勤に単に転嫁するだけなのでは、ということ。政府のもくろみに資するか非常に疑問だ。

ただしこれを機に、生産性を上げたり残業削減をしたり、企業努力することも必要だ。

また苦肉の策として、「有休の計画的付与」を無理やり適用することも考えられる。

 

そもそも、人材が潤沢な大企業と少数精鋭で業務を回している中小とで、どうして有休の付与日数が同じなのか以前から疑問に思う。

例えば、従業員が500人を超える企業は最大年20日(現行)、200人を超える企業は最大年15日、200人以下の企業は最大年10日などと、企業規模によって付与日数を変える案もあっていいと思う。

 

少し論点がずれるが、どうせ従業員に休暇を与えるなら、例えば「ボランティア休暇」とか「アニバーサリー休暇」とか「自己啓発休暇」とか、企業価値をもっと高めるような休暇を考えたい。

 

 

②ホワイトカラーエグゼンプション

今のところ年収基準は1075万円、対象業種は5つ(今後増える可能性あり)のようだ。

果たして、この日本にどれだけの対象者がいるというのだろう?少なくとも中小企業にとっては、全く骨抜きだ。だからこれはスルー。

ただ今後、この基準が引き下がってくれば話は別だ。

 

 

③月60時間超の残業 中小も50%割増

これも中小に厳しい。

ただ、そもそも残業が月60時間を超えるような働き方は問題だ。その気になれば残業時間は減らせる。企業努力が必要だ。

どうしても無理なら、業務を下請けに回すとか、人を雇うとか、事業を縮小するとか、諦めて割増を払うか、或いはサービス残業ということになるんだろう。

政府のもくろみに資するか否かは、結局それぞれの企業次第だ。

 

ちなみに運送業界の強い反発で2019年の施行予定となっている。私も運送業のクライアントがいるため、運送業界の労働時間の悩ましさはよく分かる。

 

 

④フレックス制 週50時間超なら残業代

精算期間が最大1ヵ月から3ヵ月に変更になり、週換算で労働時間が50時間を超える場合は残業代が発生する仕組みになるようだ。

50時間を超えるケースって、結構あるんではないかと思う。この点はフレックスの「どんぶり勘定的残業算定」のうまみが消え、事務負担が増える。なんだか変形労働時間制みたいになっちゃう?

 

まぁいずれにせよ、フレックスは自己管理がちゃんとできる人でないと適用してはいけない。

生産性や自己管理能力の高い社員には、当制度は政府のもくろみに資するが、そうでない社員には逆効果に出る気がする。

 

 

⑤裁量労働制 対象拡大

顧客の課題を解決する提案営業や、品質管理業務も対象に追加されるようだ。ただ店頭販売やルートセールス等の対象外については、指針に明記されるようだ。

でもここで言う提案営業ってなんだろう?これだけではよく分からんぞ。企業が好きなように解釈する可能性がある。


現在、事業場外みなし労働制を営業職に適用しても、争いになればほとんど会社は負ける。だから私はクライアントに営業へのみなしは適用しないよう、アドバイスしている。結果、みなしを適用しているクライアントは0だ。

これが裁量労働制になれば、すんなり認められるようになるのだろうか?いや、そんな気はしない。個人的には、今回の改革案の中で最も気になるところだ。

 

裁量労働制は、長時間労働や未払い賃金、モチベーション低下、健康障害などの問題を誘発しやすい。

政府のもくろみに資するか否かは、適正に運用できるかどうかにかかっている。

 

 

今から約70年前、ブルーカラーを想定して作られた労基法は、今の時代にそぐわず、とうに制度疲労をおこしている。

今回の改革はむしろ遅すぎるくらいだが、政府の言う「働き過ぎを防止し、規制を緩める」という一種矛盾した考え方が、果たして吉と出るか凶と出るか。

いずれにせよ、法律を変えても、結局はそれを使う企業や人の意識・運用の問題になる。


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