機械式時計という名のラグジュアリー戦略

男なら一度は憧れたことがあるであろう機械式腕時計。

今回は、そんな機械式時計の本場であるスイスの時計産業に関するビジネス書の紹介。

 

同書は、一度は危機的状況に陥りながらも、巧みな戦略で復活を遂げたスイス時計産業を歴史的観点から解説している。

 

その危機的状況を作り出した原因の1つが、1970年代後半から80年代前半にかけて大量に生産・輸出された日本のクオーツ時計だ。

一時は従業員が3分の1にまで激減したという。スイス時計産業に与えた打撃の大きさから「クオーツ革命」と呼ばれている。

 


しかしスイス時計産業界は、ニコラス・G・ハイエックがCEOを務める、「スウォッチグループ」が中心になって、復活のためのシナリオを実行しいていく。

 

その軸となったのが、古き良き伝統を守り、より価値を高めようというブランド戦略だった。

例えば歴史的な伝統を誇る時計メーカーを買収し、そういったメーカーが集積する地域にあえて会社を移転したり、ティファニーとタイアップしたり、パリの凱旋門あたりに店を構えたり。

セグメント別攻略では、オメガやティソなどに代表される「誰でも手が届くラグジュアリー」によって大きな成功を収めた。


驚くべきことに、スイスにおけるこの約20年ほどの輸出推移(機械式+クオーツ)を見てみると、出荷量は微減だが金額は堅調に増え続けている。機械式の平均単価が年々高まっているからだ。

機械式のブランド価値維持のために、意図的に大量生産を避けていることもうかがえる。

 

日本の時計メーカーがスイスの時計メーカーに勝てなかったのは、このブランド力・ブランド戦略の差なのかもしれない。

モノづくりが得意で、古き良き伝統が残る日本の製造業は、歴史あるスイスの時計産業といろいろ重なる。

スイスの時計産業ビジネスから得られるヒントは大いにあると思う。

 


ところで同書は残念な点があった。

まず、何と言っても翻訳が分かりにくかった。原著はフランス語で、英語やドイツ語の固有名詞も多かったという。筆者自身も末巻で述べているが、翻訳に苦労したようだ。

 

更に時代背景や企業名がいろいろと錯綜するから、頭の中で整理しながら読むのに苦労した。(というか整理できなかった(笑))

時計マニアなら嬉しいだろうが、一般人にはむしろ情報過多。歴史本なのかビジネス書なのか、中途半端な印象だった。

 

大変興味深いテーマだけに、本当に残念だった。

いっそ、カリスマ経営者ハイエックの伝記本として出版した方が面白かったのではないかと思った。


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